ATLUS

人間と合体する悪魔

　悪魔アモンといえば、永井豪氏のマンガ『デビルマン』を思い出す方も多いと思います。1972年に『週刊少年マガジン』のマンガ連載とテレビアニメが同じくらいのタイミングで始まったこの作品は、『真・女神転生』シリーズだけでなく日本で発表された悪魔をはじめとするオカルト的存在を題材にしたエンタテインメント作品の多くのルーツとなる記念碑的作品です。この作品で主人公「不動明」は、悪魔アモンと合体して「デビルマン」となります。

　『真・女神転生』シリーズに長く親しんでいる方には、『真・女神転生if...』で一度クリアした後でないと遊ぶことのできない隠しシナリオ的扱いだった「アキラ編」を思い出す方もいるのではないでしょうか。この「アキラ編」がマンガ『デビルマン』にオマージュを捧げた作品であることも、もしかしたらご存知かもしれません。「アキラ編」で主人公のパートナーとしてともに冒険する「宮本明」はストーリー上、悪魔アモンと合体し半分が人間、半分が悪魔という特別な存在となります。こうした主要なキャラクターと悪魔の合体はそれまでの作品にも描かれていましたが、悪魔と合体することで力を獲得する流れ自体『デビルマン』からの影響なしには語ることのできない要素です。『真・女神転生if...』では、「アキラ編」に「エジプト神話」の要素を盛り込んでおり、悪魔アモン自体がエジプト神話に登場する神「アメン」をルーツとしていることから、『デビルマン』にオマージュを捧げる意図でキャラクター「アキラ」と悪魔「アモン」を合体させる設定となりました（※『真・女神転生DEEP STRANGE JOURNEY』初回生産限定版「真・女神転生25周年記念スペシャルボックス」に同梱される『シリーズ25周年記念教典 メガテンマニアクス』には、宮本明が「宮本多聞」と呼ばれていた『真・女神転生if...』制作時の設定書なども収録しています）。

　アモンと呼ばれる悪魔はキリスト教圏で中世に拡大・発展していった「神の敵対者」とされる存在の一例です。「神秘思想」とともに広がっていった悪魔の概念については、『真4Fと神話世界への旅』の第4回「神秘思想と悪魔サタン」や第14回「アドラメレクと邪教の魔神たち」の回も参照いただくことをお勧めしますが、神学者たちが神をどう解釈するかといった高尚な思想に始まる「オカルト」は広く知られるようになるに従ってある種のエンタテインメント性を獲得していき、民衆に好まれる題材に変化していきます。この辺りは上記補遺編2「メフィストと悪魔を召喚する魔法使い」に解説した内容と共通する歴史的背景があります。アモンにも「悪魔の侯爵」であるとか、「蛇の尾を持つ狼」や「フクロウの頭」といったどこかユーモラスな姿で中世期の書物に描かれています。ただそうした「悪魔アモン」の外見や設定の根拠となる古い文献は特にないようです。

　アモンが古代エジプトのテーベ（現在のルクソール）の主神「アメン」を由来とする考え方については、旧約聖書の『エレミヤ書』に神が「テーベの神アモンを罰する」（新共同訳、46章25節）との記述があることや、同様に各地の神話から悪魔にされた神々が多いことから導き出された後代の推論ということになります。神秘思想の類はエジプト神話やギリシア神話などより古い神話体系を元ネタとして採り上げることが多いので実際アメンが元になっているかもしれませんが、共通する要素がほとんどないため断言できないのです。「鳥の頭を持つ」外見を共通点として挙げられたりもしますが、アメンにはテーベが勢力を拡大していった結果としてエジプト全土（上エジプトと下エジプト）の神となった背景があって、獲得した他の神々の特徴を身に着けています。鳥の頭については、太陽神ホルスのハヤブサの頭をまさにいただいてしまった状態です。