塩田信之のDSJと神話世界への旅 特別編「ソロモン王と72柱の悪魔たち」
ソロモン王と72柱の悪魔
さて、全世界的に「悪魔」と言って思い浮かべるのはどんな存在でしょう。もちろん地域や時代によって変わってくるものと思われますが、曲がった角が生えていたり、背中には黒いコウモリに似た羽があったり、手にはヤリに似た武器を持っていたりするかもしれませんが、全体的に黒っぽくて怖い印象ではないかと思います。インターネットで「悪魔」という漠然とした単語で画像検索をしてみても、そんなイメージの画像がたくさん並ぶはずです。
そんなイメージの中に、黒いヤギの頭に人間の身体をした姿は比較的よくいるかもしれません。『メガテン』にも邪神として登場しているその悪魔は「バフォメット」と呼ばれ、魔女の黒ミサで崇められる存在として広く知られました。中世ヨーロッパに流行した「魔女狩り」の忌まわしい記憶とも連動するイメージとして、「悪魔」の象徴的存在となっています。
広い意味での「悪魔」という言葉は「悪」のイメージに連なるあらゆる存在の総称と言えますが、狭義でありながら一般的に浮かべやすいのは、バフォメットのように「キリスト教文化圏で『悪魔』とされる存在」です。人間を誘惑し堕落させる性質で、「サタン」とも呼ばれます。基本的には『聖書』に書かれている、最初の人間アダムとその妻イヴや、イエス・キリストを誘惑する者として、蛇などの姿で現れます。
そんな「悪魔」ですが、『聖書』そのものにはどんな存在なのかあまり具体的なことは書かれていません。「どこそこの人々の神」は、「祭壇になにが祭られている」とか「生け贄が捧げらる」みたいな記述が主体で、「我々の神とは相容れない」から「信じるのは間違い」という注意喚起が多く、それらを信じたら罰が与えられると警告するものです。違う地域の神を同じ名前で呼んでいたり、ただ「悪魔」と呼んでいっしょくたにしてしまっていることも多かったりします。
そんな悪魔たちに外見を含めさまざまな個性がついてくるのは中世期に入ってからで、先に書いた通り「神秘思想」の発達が大きく影響しています。神や悪魔について考察を深める神秘思想は古代の頃から学のある聖職者たちや、ギリシア・ローマ世界の哲学者たちによっていました。「ゾロアスター教」の開祖ザラスシュトラがインド・ペルシア地域の信仰からプレ一神教的な宗教を作り上げたのも神秘思想的な発展ですし、そこからさらに発展した「マニ教」も後のユダヤ・キリスト教神秘思想に大きな影響を与えました。古代ギリシアの哲学者プラトンは後の「グノーシス主義」の「偽創造主デミウルゴス」の原型を著書に登場させています。中世期に入ってそうした思想が広がりを見せていくのは、印刷技術の発明や娯楽としての演劇等を通じて広く知られていった背景があるからでしょう。神話や伝説も、広まっていく上で人々に好まれる形に変わっていくことになります。『旧約聖書』の中でも英雄的なダビデ王や、その息子ソロモン王は特に人間的側面が聖書中にも描かれていることから物語的に広げやすかったものと思われます。
ソロモン王の時代は、現代日本の「政教分離」というほどではないにしても、ユダヤ民族の「王権」と「信教」が離れかけていました。エジプトを脱出し「十戒」を得たモーセの頃より神の言葉を伝える「預言者」をリーダーに戴く故国を持たないユダヤ民族が、「イスラエル」と呼ばれる国を持つようになり、その頂点に他の国々同様「王」が立ちました。王も同じ唯一神の信仰者であったはずですが、権力で欲望を叶えるようにもなってしまいます。ソロモン王は古代イスラエルに短い期間で神殿を建てた偉大な王として記録されていますが、同時に部下の妻を奪うなど多数の愛人を持つ世俗的存在としても描かれています。聖書に書かれたそんなソロモン王の物語が、神秘思想と大衆の喜ぶ要素が加えられ、悪魔を従える指輪を得て悪魔の力によって神殿を完成させたなどという尾ひれやら背びれやらがついた物語に変わっていきました。神殿建設などでソロモン王に使役された悪魔たちが、いわゆる「72柱の悪魔」です。
『旧約聖書』の「列王記 上」にはソロモンが王位を継ぐところから、神に知恵を授かり神殿を建築し、イスラエルを発展させていく様子が描かれています。特に十戒の石板を納めた「聖櫃(アーク)」を神殿に安置するまではアークの材料や形状まで事細かに描写されており、少なくとも一部には現実に行われた事実であることを窺わせるリアリティがあります。しかし、ソロモンの章の終盤は背信行為の描写に取って代わられます。ソロモンは妻であるファラオの娘以外に700人の王妃と300人の愛人がいて、女性たちから異教の教えを吹き込まれます。女神アシュトレトやミルコム、ケモシュやモレク(訳語は新共同訳)といった多数の神々のための祭壇を築き、神の罰として敵対民族の侵略を受け、ソロモンの死後イスラエル国も分裂してしまうわけです。
真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY
対応機種:ニンテンドー3DS
ジャンル:RPG
発売日:2017年10月26日
CERO年齢区分:C(15才以上対象)