塩田信之のDSJと神話世界への旅 最終回「デメテルと古代ギリシアの密儀宗教」
『真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY』に登場する悪魔を、その悪魔が描かれた神話や、神話の成立した歴史から掘り下げていく連載コラム『DSJと神話世界への旅』です。『真・女神転生IV FINAL』公式サイトでの「真4Fと神話世界への旅」から引き続き、スーパーファミコン版『真・女神転生』の頃から関連する書籍等で悪魔や神話関係のコーナーを執筆してきたライター・塩田信之が担当させていただいております。
今回は連載最終回ということで、『真・女神転生DEEP STRANGE JOURNEY』で新たに追加された悪魔の中でも、特にストーリーに関わる重要な役割を持つギリシア神話の女神「デメテル」について掘り下げていきたいと思います。
最終回 デメテルと古代ギリシアの密儀宗教
古代ギリシアの地母神デメテル
古代ギリシアの宗教界で、女神デメテルが非常に重大な位置にあったことは確実です。ゼウスを頂点とするギリシア神話において、ゼウスに次ぐ高位となる「オリュンポス十二神」にも数えられますし、古代ギリシアの首都アテナイをはじめとする各地で農作物の豊作をデメテルに祈願する女性だけの祭儀「テスモフォリア祭」が毎年10月末から11月はじめの頃に行われていました。
さらに重要性の高さを窺うことができるのは、古代ギリシアのみならずキリスト教が一般に広まる前までのローマでも信仰されていた「エレウシス密儀」の祭神だったという事実です。密儀宗教というのは平たくいえば会員制の秘密クラブみたいなもので、「儀式の内容を外に漏らさない」などといった誓約を行い入会費用なども払って入会の儀式を経て加入する組織です。古代のギリシアとそこでの宗教を受け継いだ中期くらいまでのローマには「ディオニュソス(バッカス)教」や「オルフェウス教」などいくつもの密儀宗教があって、中でもエレウシス密儀は最大級の勢力で、皇帝にすら入信者がいたという記録が残っています。
エレウシスはアテナイにも近い位置にある地名で、古代ギリシアにポリスと呼ばれる都市国家がいくつも作られるよりも前、ミケーネ文明と呼ばれていた時代から都市があったとされています。デメテル信仰が非常に古くからあったことは、ギリシア神話のもっとも古い文献とされ紀元前8世紀には成立していたホメロスの『イリアス』や『オデッセイア』のあちこちにデメテルに関する記述があることからも窺えます。例えば『イリアス』の第五歌には、
「麦を打つ聖なる庭で、農夫らが箕をゆすり、黄金の髪の五穀の女神(デメテル)が、吹きつける風にまかせて、実と籾殻を選り分ける時、籾殻の山は次第に白く盛り上がる」(松平千秋訳/岩波文庫より)
という表現が、トロイア戦争で砂埃を浴びた軍勢の姿を表す比喩として使われています。デメテルには「髪の美しい」といった修辞が付属することが多く、デメテル信仰自体が生活レベルで一般に浸透していたことが窺えます。第2回「ギリシア神話における神々の王ゼウス」で紹介したヘシオドスの『神統記』はデメテルがゼウスやポセイドン、ハデスの姉妹として時の神クロノスと地母神レアの子だと書いてありますが、農家だったとされるヘシオドスにはもうひとつ『仕事と日』という文書が遺されていて、農作業の合間に行われるデメテルへの祈りが作業の具体的な内容とともに記されています。
古代ギリシアの宗教の成り立ちを考えれば、デメテルはエレウシスの守護神として信仰されていたものがオリュンポス十二神に組み込まれる形でギリシア全国区での信仰になっていったと思われますが、『神統記』には「女神の中の女神」であるデメテルがクレタ島で英雄イアシオンと結ばれ「富」を意味するプロトスという子を生んだという伝説も収録されていて、その時点でも広い地域で信仰されていたことがわかります。
真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY
対応機種:ニンテンドー3DS
ジャンル:RPG
発売日:2017年10月26日
CERO年齢区分:C(15才以上対象)