塩田信之のDSJと神話世界への旅 第2回「ギリシア神話における神々の王ゼウス」
神話と宗教によってまとまるギリシア世界
では、ゼウスはどうしてそこまで強大な権威となったのでしょう。その背景には軍事力による勢力拡大もあったはずですが、それ以上に重要だったのは優れた宗教を持っていたからです。今となっては遺跡や芸術作品、そして物語としての神話という形がゼウスをはじめとするギリシア神話の神々との接点となりますが、かつてはヨーロッパの広い範囲で実際に信仰されていた宗教だったわけです。広い地域にわたる巨大な国家としてまとまる上で、地域ごとにある宗教をひとつにまとめられるだけの力がある優れた宗教は軍事力以上に重要な兵器でもありました。
ギリシア周辺の地域が非常に古くから文明を持っていたことは、遺跡の調査などから今ではよく知られています。古いとはいってもシュメールやバビロニアといったオリエント文明やエジプトに比べれば新しい部類に入りますが、ギリシアをはじめとするエーゲ海周辺地域には紀元前3000年くらいにはヘラディック文明やミノス文明、キュクラデス文明といった高度な文化がいくつも育っていました。古代ギリシアといえば神話としても遺跡としてもトロイア戦争の舞台がシュリーマンによって発見されたエーゲ海東岸地域も、そのくらい古い時代には発展を遂げています。
そんな古い時代の宗教は、集落から都市といった地域、職能集団や氏族単位などさまざまなレベルで守護神を崇めていたようです。後にポリスと呼ばれることになる都市国家単位での守護神にまで発展することもありましたが、祖先神や自然物崇拝などに近いプライベートな信仰形態が数多くあっていわゆる多神教の土壌ができていました。そんな中でも強い力を持っていった神は、後にギリシア神話に取り込まれる原型となっていきます。例えばアテネのアテナ、エレウシスのデメテル、アルゴスのヘラ、エフェソスのアルテミスなどがそうですが、地母神とも呼ばれる母権的性格の強い女神信仰も多かったようです。それらにはオリエントのイシュタルやエジプトのイシスらの影響も見て取ることができます。
古代ギリシアはその後「暗黒時代」と呼ばれる文字による記録のあまり残っていない長い期間に突入するのですが、恐らくはその頃に宗教と神話が著しい発達を遂げたものと思われます。というのも、文字をあまり使わない頃だったからこそ、口承文化としての神の物語が重要な存在となり、吟唱詩人と呼ばれる存在が重用されるようにもなって、神殿で神の物語が謳われていく状況からそれを伝えてきたとされるホメロスのような存在も出てきます。暗黒時代を抜けると同時に『イリアス』や『オデッセイア』といったギリシア神話の基礎となる叙事詩が誕生したもの、恐らくは神の物語を伝える目的で言語が整備されていったと考えられます。
ホメロスが伝説的存在で、古代ローマの時代にも実在が疑われていたことは『真4Fと神話世界への旅』の「第5回 メデューサとギリシア神話」でも触れましたが、『イリアス』や『オデッセイア』などに描かれた、それまでの歴史や宗教観を元に発展させた「オリュンポス神話」はギリシアとその周辺の宗教に大きな改革をもたらします。現実的には暗黒時代の頃からさまざまな形で武力による衝突と併呑が繰り返されていったのでしょうが、各地の宗教は「オリュンポス十二神」やそれを頂点とするヒエラルキーに組み込まれ、ひとつの宗教にまとめ上げられていくことになります。そうした歴史が、「ギリシア神話」を造り上げていったわけです。
真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY
対応機種:ニンテンドー3DS
ジャンル:RPG
発売日:2017年10月26日
CERO年齢区分:C(15才以上対象)